高千穂に降臨した天孫ニニギ命はこの峰の上から韓国岳を眺め、笠沙の岬を見ていた。ちょうど笠沙の岬へ出かけた超美人の木花咲夜姫(コノハナサクヤヒメ)を見つけてプロポーズする。姫の父、大山津見(オオヤマヅミ)神は
「それはすばらしいことだ」
と言って、姉の石長比売(イワナガヒメ)と二人一緒に嫁に出した。ところがニニギ命は、自分が結婚したいのは美人のコノハナサクヤ姫で、器量の悪いイワナガ姫はいらないと言って姉だけを追い返した。今でいえばとんでもないセクハラ男、いや神だ。
当然のことだが大山津見神は怒って言った。
「イワナガ姫を嫁がせたのはニニギ命の子孫が岩のように丈夫で末長くあれと念じてのこと。送り返したので、ニニギ命の子孫は木の花のようにもろくはかないことになる」
ニニギ命の子孫の天皇の命が長くないのはこのようないわれがある。
韓国岳はお隣の韓国からとった名前ではなく古くある名前だった。2009年アキレス腱断裂の治療中に、奥さんに連れられ松葉杖をついて登った覚えがある。目の前に大きな火口がありその先にすっくと立った高千穂の峰を見て、これぞ天孫降臨の場と思った。
翌年韓国岳と高千穂峰の間の新燃岳が大噴火し、世間をにぎわした。その後に東日本大震災が起こったので新燃岳の噴火のことは何も報道されなかった。今はどうなっているのか?
火山噴火などはめったに起こるものではないが、南九州では桜島をはじめ活動的な火山がいくつもあって噴煙を上げている。肥前、肥後国は「肥国」すなわち「火の国」であった。古代においては「火」は敬うべきものだったのだろう。天孫降臨神話の中にも「火」の話が出てくる。
セクハラ親父のニニギ命は結婚したばかりのコノハナサクヤ姫が妊娠したと聞くと
「一夜の契りで子はできない。お腹の子は俺の子ではない!」
という。疑われた妻のコノハナサクヤ姫は怒り狂って言う。
「まちがいなくあなた(ニニギ命)の子です。神の子だから例え火の中でも無事に生まれます」
コノハナサクヤ姫は産屋に火をつけて燃え盛る火の中で三人の子どもを出産した。生まれたのは3人の男の子。
長男が火照命(ホデリノミコト)……海幸彦
次男が火須勢理命(ホスセリノミコト)、
三男が火遠理命(ホオリノミコト)……山幸彦
コノハナサクヤ姫は高千穂からも近い桜島の神であるが、今は富士山の神としても親しまれている。剛毅で気高いコノハナサクヤ姫は、先の大戦の時には大変人気があった。一方セクハラ親父のニニギ命は今も人気がない。まあ当然のことだが、天孫はなぜこんな人でなしとして描かれたのだろうか。私には理由は分からない。
ともかくこの二柱(ニニギ命とコノハナサクヤ姫)が天皇家の祖、「日向三代」の初代ということになる。しかし気になるのは、高天原の神と日向三代の神の関係だ。大山津見神は山の神、綿津見神は海人族の神さまである。日向三代の神さまの神話はおそらく南方の海洋民族の神話からもたらされたものだろう。天皇家の祖先は南方民族の血を引いていることを暗示しているのではないだろうか。