上の地図は五百沢智也さんがわざわざ作って下さった手書きの2万5千分の一の地形図である。五百沢さんは国土地理院の地図の専門家、登山家でもあったが退職後は多くの著作を残された。
私が三輪山に何回も行っていると報告すると、
「腕が鈍らないように描いてみたよ!」
とこの地図を送って下さった。
よく見ると2万5千分の一の地形図をコピーではなく等高線も一本一本手書きである。こんな貴重なものは私が死蔵してはもったいない。ぜひ皆さんにも見てほしいと思ったことも、この紀行文をFBにアップした理由でもある。「お宝鑑定団」に出したら大変な値段がつくかもしれない。
三輪山は長い間禁足地で人が入ることはできなかったが、最近は狭井(さい)神社から時間を限って登ることができる。地図を見ると登山口の等高線は100m、頂上は480mを示している。高度差380mはかなりの登りである。神聖な登山道では飲食、酒やタバコ、写真も禁止である。途中に滝の修行場もある。一木一草、一岩にも神が宿っており、ちょっとした木々、岩々には注連縄(しめなわ)が張ってある。参拝者はそれをひとつずつ拝んでいく。
三輪の神は酒の神でもあるがもちろん山内では飲むことはできない。飲んでいいのは狭井神社で汲んだ「ご神水(こうずい)」だけである。私が登った時、後ろから追い越して行った白装束の女性は「はだし」だった。「冷たくないの?」声をかけたが返事をしてもらえなかった。山を下りた後に再会したら、
「神聖な山の中なので声を出してはいけないのです!」
と諭された。
物見遊山で登ってはいけないような荘厳な山だった。強い信仰心があれば、足の痛さなど気にならないのかもしれない。
三輪山の神は酒の神でもあると聞いた。酒は古代には薬でもあった。大神神社から狭井神社に行く途中に「くすり道」があり、両側には薬品会社の灯篭が立ち並んでいる。全部確認したわけではないが日本の製薬会社はほとんどすべてが寄進しているのではないかと思えるくらいだ。
大神神社の境内には相当な数の酒樽も奉納してあった。町中の酒屋の前につるされている杉玉は、三輪の新酒ができたことを知らせる印なのだそうだ。酒、薬は古代では大変重要な産業、その神様はとても偉かったのだろう。