あの日から10年、 紅白が嫌いなわけ!

10年前の今日、私はミャンマーのイラワジ川の河口のデルタにいた。明学大の学生6人と一緒にマングローブの森の中の島の一軒家にいた。隣の島までは舟で2,3時間かかった。その島は河口の低湿地で地面の高さは1m以内だった。島の最高所はマングローブの木々と木造の小さな展望台だけだった。もし3mの津波が来たら、全滅になるところだった。

朝水辺のベランダで朝食をとっているとかなりの揺れが来た。けっこう長い大きな地震だった。「これは津波が来るなぁ!」と思い、皆に地下足袋をはいて、水が上がってきたら木に登るよう準備をしていた。実際は木に登ってもだめだったろうが、他に高所はないので、選択の余地はなかった。1時間ほど待機したが、50センチぐらい水位が上がっただけで、津波はなかった。

電話も電気もインターネットも何にもないところだったので、沖を通る船へ連絡官の方に行ってもらい、様子を聞いたら「韓国で大きな地震が起こった!」とのことだった。しばらくBBCのラジオ放送を聞いていたら、スマトラ沖で大きな地震があり、津波で大きな被害が出ていることが分かった。「ツナミ」が英語だったことを知った。

別の地域に散っていた仲間と合流して、ボガレーという町に戻ったのは28日だった。そこには津波がきており、水浸しだった。さらにそこから10時間以上かけて首都のヤンゴンに戻った。日本では我が家も学生の家族も情報収集に奔走していたが、大使館は正月休み。日本企業はどこにもないので、情報は何にもなしで、大変心配をかけた。3日間過ぎてやっと電話が通じ、連絡がついて、ホッとした。

ヤンゴンではBBCやCNNが大地震、津波の報道をしていた。犠牲者は数万にのぼると言われていたが、実際には22万人にものぼった。ヤンゴンではNHKの国際報道も見ることができたのだが、1日中紅白歌合戦の宣伝ばかり。日本人も数多く亡くなっており、行方不明者も多いのに、なんと心ないことかと思った。せめてBBCの1/10でも報道してくれよと思った。その時から私は紅白歌合戦が嫌いになった。もちろん紅白が悪いわけではないが。

ここ数日紅白の宣伝が始まっているが、それを見るたびにスマトラ沖地震、インド洋津波の悲劇を思い出す。紅白なんて中止して、もっともっときちんと報道していれば2011年の東日本津波の被害は少なかったろうと思う。あれだけの悲劇だったのに紅白、紅白とはしゃぐなんて、外国の人は呆れていた。しかし反省はまったくなく、相変わらず紅白紅白と叫んでいる。

東日本大震災の時には外国のテレビBBCやCNNは連日放映していた。日本のテレビや新聞は報道機関だということを忘れてバラエティーばかりやっている。やっと先日NHKでは、原発の放射線の放出が水素爆発以降だったとの報道をしていた。私の信頼する戸来(へらい)記者が報告していたが、こういう検証報道をすることがテレビや新聞の使命だろうに。

話は広がったが、ともかく12月26日スマトラ沖地震の日、私が紅白歌合戦を嫌いになった日だということだ。「国民的行事!」とはしゃぐ人も多いが、「ちがうんじゃない!」という人もいるんだということもお忘れなく。