豊富の草原を雄次郎と走る

8月9日(土)
 北海道北部は毎日どんよりした空で、ときどき雨も降ってくる。真夏なのに寒い。利尻島に行こうと思ったが、台風も接近しており無理だ。そこで田中裕次郎家の次男のSくんを連れてマラソンをすることにした。彼は中学3年で陸上部に所属している。するとお父さんが「おれもいくぞ」と言う。毎日朝早くから牛の世話をしているので、疲れているはずだ。しかし昔からの習いで、とっさの判断でともかく何にでも参加するという行動は健在だ。

 大規模草地一周は24キロあるという。Sくんはまだ10kmしか走ったことがない。長距離走は経験だけがものをいう。アップダウンがある10kmをSくんは快調にとばす。お父さんは体が重くドタドタと、馬力だけで走っている。中間地点の展望台では2、3分の差があった。長く休むと体が冷えるので、後半にかかる。Sくんにとっては未知の距離である。お父さんは今でこそドタドタだが、若い日には日本縦断をした超ウルトラランナーである。経験の差が出てくる。大規模草地を出るころ私についているのはお父さんだけになった。Sくんは歩き始めているようだった。

 お父さんは、一度はみわを負かしてやろうと思っていた、これがチャンスだと思い必死で走ったのだと後で聞いた。私もその迫力を感じたので、負けてはいられない。あと4キロの上り坂で懸命に走ると、ついてこれなくなった。それでもお父さんはSくんに大差をつけて完走。自転車で見に行くとSくんは「気力がなくなった」と歩いている。

 「もう走りたくない」と言わせてしまったら、教育としては失敗かも知れない。でも理不尽にひどい目に遭うのはいい経験だ。来年になったらきっと20kmくらいは難なく走っているだろう。